グーグル翻訳がさらに進化した社会で、我々は英語を学ぶ必要があるのか?

「英語を習得すれば、あなたの給料は劇的に増加すると言われています。」

上の文章について、あなたはどう思いますか?英語力が給料に影響を与えるのは過去の話だと思いますか?それとも現在も有効でしょうか?…ところで実はこの文章、 "It is said that if you master English, your salary will dramatically increase"という英文をグーグル翻訳で日本語にしたものです。コンピューターが作成した日本語だということに気がつきましたか?

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2016年の秋に、グーグルはニューラルネットワーク機械学習と呼ばれる技術を翻訳システムに導入しました。結果はご覧の通り、グーグル翻訳の進化は驚異的です(参考:Google Japan Blog: Google 翻訳が進化しました)。現時点でのクオリティも申し分ないのですが、このシステムの凄いところは、ユーザーが利用を重ねるごとに、より自然な翻訳ができるよう自動的に成長していくことです。ドラえもんの秘密道具、ほんやくコンニャクが登場する日もそう遠くないかもしれません。さて、そこで今回の本題です。テクノロジーが急速に進化していく現代、我々は英語を学ぶ必要があるのでしょうか?

 

グーグル翻訳が進化しても語学を学ぶ意味は、ある!

 あえて「英語」ではなく「語学」と書きました。私の結論は、英語を学ぶ重要性は下がるが、語学を学ぶ重要性は変わらないです。どういうことか下に説明していきます。前提として、下記のようなウェアラブルなデバイスを身体に装着し、高いクオリティでの同時機械通訳が実現された時代を想定しています。

語学学習による拡散的思考(divergent thinking)の発達

バイリンガルの人は一般の人に比べて、創造性 (creativity) に優れているといいます。その要因として、二つの異なる言語システムを同時に操ることで伸びる認知能力、バイリンガルになる過程の多文化経験などが挙げられています。では、第二言語として外国語を学んだ人でも、同様に創造性へプラスの影響があるのでしょうか?そのことを研究したThe Effects of Foreign Language Learning on Creativityという論文がありました。そこには、こう書かれています。

The present study found that mastering a foreign language in a classroom context dramatically increases the four components of divergent thinking ability, i.e. fluency, elaboration, originality, and flexibility. This asset can be ascribed to the cognitive developments that might have been brought by this experience (needs to be investigated) as is caused by bilingualism, or the intensive training offered in an atmosphere that is different from those experienced at school or home. 

簡単に翻訳すると、「第二言語の習得は拡散的思考の四つの要素である、流暢性・具体性・独自性、柔軟性を劇的に向上させることが判った。これらはバイリンガルと同様に認知能力の発達の結果か(さらに調査が必要)、もしくは家庭や学校と異なる環境で集中的なトレーニングを行った結果である。」ということです。

ちなみに、拡散的思考というのは、創造的なアイディアを出す為の思考プロセスです。ブレーンストーミングなどがその代表例で、既知の情報に囚われず、あらゆる可能性を拡散的に考え、新たな着想を得る思考法です。つまり、拡散的思考能力の向上は、創造性の向上に繋がっていきます。

急速にテクノロジーが進化していく21世紀。そんな時代で活躍するには、これまでとは異なった能力が求められます。それらは21世紀型能力と呼ばれ、その内の一つに創造性 (creativity) が挙げられています(参考:FRAMEWORK FOR 21ST CENTURY LEARNING)。創造性を伸ばすことができる語学学習、たとえ機械同時通訳が発達していたとしても、語学を学ぶ意義が充分にあるのではないでしょうか?

 

異文化理解としての語学学習 

語学を学ぶ重要性のもう一つがこれ、異文化を理解するということです。僕は言語の役割を大きく情報伝達人間関係構築の二つに分けることができると思います。

よくニュースなどで目にする、「グローバル化していく現代では、共通言語である英語は必須だ」という議論。これは前者の分類です。事実、ビジネスの世界では英語が共通語として使用されます。例えば、日本人と韓国人が中国人が一つのテーブルに座れば、使用される言語はまず英語でしょう。それがインド人・カンボジア人・ドイツ人の組み合わせでも同じです。このような文脈であれば、高度に発達した機械同時通訳を使用しても全く問題ないはずです。すでに多国籍でオフィシャルなカンファレンスには同時通訳が入っていますし。これが僕が英語学習の重要性が下がると考えている理由です。

一方で、言語には人間関係構築の役割があります。これは海外に行ったことがある人は経験があると思いますが、英語で話しかけるのと、現地語で話しかけるので、相手のリアクションが変わります。相手の言語を学ぶということは、相手の文化への尊重や好意を意味し、円滑に人間関係を作ることができます。例えば、僕が好きな映画の一つ「パッチギ」では、日本人高校生を演じる塩谷瞬が、在日朝鮮人を演じる沢尻エリカに一目惚れし、塩谷瞬が親しくなりたい一心で朝鮮語を勉強することから二人の恋が始まります。二人は日本語を使って情報伝達することはできましたが、人間関係を構築するために朝鮮語が必要だったのです。機械翻訳を使っては二人の恋は成就しなかったでしょう。

グローバル化していく21世紀

これから世界は更にグローバル化していきます。現在、イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領の誕生など、ナショナリズムの台頭が顕著ですが、これは急速に進むグローバル化への反動に過ぎません。というのも、テクノロジーの進化によって人間の力が増大し、一国が地球規模の影響力を持ちえるので、グローバルに連携していく必要性が必ずあるからです。

世界経済フォーラムグローバルリスク報告書(2017年度版)によると、今年に起こりうる最大のリスクとして、異常気象、大規模な移民、自然災害、テロ、サイバー攻撃が挙げられています。いずれも一国単位の問題ではありません。国際的に協力し、取り組むべき問題です。そんな時に必要なのが、相手の国の事情や文化を理解できる能力です。自分が正しいと信じていることが、相手にとっては正しくないかもしれません。文化を跨ぐとそのようなことは日常茶飯事です。

第二言語を学ぶ過程で、その言語のネイティブスピーカーとの交流は欠かせません。その国に留学をし、現地で生活することもあるでしょう。その国の代表的な小説を読むこともあると思います。そうした経験を通じて、日本にはない新しい価値観を身体に吸収していきます。また、時には自分が差別を受けるかもしれません。「そんな下手な○○語を使うな!」と罵倒されるかもしれません。人は、自分がマイノリティであるという体験をしてようやく、周囲のマイノリティの心情を理解できるようになるものです。第二言語を習得するうえで発生するプラスの体験もマイナスの体験も、グローバル化が進む21世紀の生活を豊かにしてくれます。

 結論

もしグーグル翻訳がさらに高度に進化したら…

  • 情報伝達をする為の共通言語(英語)は、機械同時通訳へ置き換わる
  • 創造性、異文化理解力を身につける為の語学学習の重要性は変わらない

というのが僕の意見です。今日現在で大学生ぐらいであれば、まだ英語を勉強した方がいいと思いますが、これから生まれてくる子供達が学ぶ言語は必ずしも英語でなくていいと思います。異文化理解という観点では、文法の類似性がある韓国語でもいいかもしれませんし、日本が避けては通れない外交相手の中国語でもいいかもしれません。いずれにせよ、情報を伝える為の手段は機械に任して、人間同士の深いコミュニケーションに特化していくべきです。それには、異文化を理解する能力が必要で、語学学習がうってつけの学習手段であるということです。

さあ、果たして機械同時通訳は何年後に誕生するのでしょうか。我々は非常にエキサイティングな時代に生きてますね。