ムダ・ムラ・ムリを取り除け!トヨタ生産方式に学ぶプロジェクトマネジメント

前回のエントリーで、プロジェクトの遂行能力を上げるには、組織の体制や行動習慣を向上させる必要があるということを書きました。組織の行動習慣と言えば、やはりトヨタ。車の製造は、ITの世界と勝手が違っていても、モノづくりの現場から学ぶことは多くあるはずです。特に、何かを大量に作らなければいけないプロジェクトでは、特定の技術力だけではなく、大量生産に耐えられるノウハウが重要です。ということで、「トヨタ 仕事の基本大全」という本を読んでみました。

 

トヨタ 仕事の基本大全

トヨタ 仕事の基本大全

 

 

大量生産型モノづくりの指針「ムダ・ムラ・ムリを取り除く」

IT業界は大量生産とは無縁なのではと思うかもしれませんが、実はそうでもありません。自分の過去の業務を振り返っても、SEO対策をしていたときはブログの記事を、教材開発をしていたときは問題や例文を大量に制作していました。

一つのモノの品質を追求するには職人の技が必要ですが、何万個のモノを同じ品質で提供するにはシステマチックなマネジメントが必要です。トヨタは年間で一千万台以上の車を製造していますが、いずれも高い品質を保っており、高度な技術力と生産方式を兼ね合わせた素晴らしい企業だと思います。

そのトヨタで推奨されているのが「 ムダ・ムラ・ムリを取り除く」ということ。プロジェクトマネジメントの本質は時間コスト品質をマネジメントすることですが、このムダ・ムラ・ムリはそれらに密接に関わっています。

 

 ムダ

トヨタ 仕事の基本大全」によると、ムダは次のように定義されています。

トヨタでは、ムダを「付加価値を高めない現象や結果」と定義し、「7つのムダ」(❶つくりすぎのムダ、❷手待ちのムダ、❸運搬のムダ、❹加工そのもののムダ、❺在庫のムダ、❻動作のムダ、❼不良をつくるムダ)をなくすことを徹底しています 

このようなムダをなくす為に、あの有名な「5S」や「自工程完結」という考え方があるというわけです。この2つは既にご存知の方も多いと思いますが一応説明をします。

「5S」は整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字をとったもので、これを徹底することで "必要なもの" を "必要なとき" に "必要なだけ" 取り出せることができるようになります。

「自工程完結」は作業のやり直しが発生しないように自分の工程で作り込むことを意味します。例えば、教材の問題作りで、ラフ作成の手を抜いてしまい、最後の校正で問題の作り直しになったとします。そうなれば、ラフ作成の後にした作業、例えばデザインあて等の時間がムダになってしまいます。一つひとつの工程でしっかりと作り込んでいれば、やり直しのムダはありませんし、通常工程の校正の工数も軽くなります。 

ムダが出れば出るほど、工数に影響があるため、ムダをなくすことはコストを抑えることと同義であると言えます。上で引用した7つのムダをなくす為に、様々な改善活動を続けるのがトヨタの仕事の進め方だそうです。

 

ムラ

モノづくりでは、納品の後に不良品がないかを調べる「検品」や、発注した内容通りに作られているかをチェックする「検収」というものがあります。もし不良品率が高ければ、不良を作るムダが発生していますし、そもそもクライアントの信頼を損ねて今後のビジネスがなくなってしまうかもしれません。品質にムラを出さないというのは非常に重要なことです。では、トヨタではムラをなくす為にどのような取り組みをしているのでしょうか。

トヨタには「標準」という考え方があります。 標準とは、各作業のやり方や条件であり、作業者はこれにもとづきながら、仕事をこなしていきます。簡単にいえば、標準とは、「このようにつくりましょう」という取り決めです。具体的には、作業要領書や作業指導書、品質チェック要領書、刃具取り替え作業要領書など「標準書」は多岐にわたります。これらは、少しずつ各職場でつくられてきたもので、まさに現場の知恵が凝縮された手引書です。たとえば、ある部品のボルトを締める作業があるとき、「しっかり締めろよ」と教えても、人によって「しっかり」の解釈に誤差があるため、ボルトが緩い状態になってしまう可能性があります。しかし、「カチッという音がするまで締める」という標準が決められていれば、誰でも同じ強さで締められます。標準とは「誰がやっても同じものができるしくみ」なのです

 大量生産型のモノづくりでは、特定の人や機械に依存することはできません。あの機械を使えば良いものができるがこの機械を使えば不良品が出る...そんな状況では不良品率は跳ね上がってしまうでしょう。きちんと品質を担保する為、誰がどこで作業しても同じ品質が出るようにムラをなくすことは非常に重要です。

 

ムリ

さて、ここまで ”プロジェクトマネジメントの本質は、時間・コスト・品質をマネジメントすること”とし、ムダはコスト、ムラは品質に関わっていることを書きました。では、ムダはどういう位置づけなのでしょうか?実は、「トヨタ 仕事の基本大全」ではムダについてはあまり触れられていませんでした。そこで、自分なりに考えてみたのですが、ムリはムダやムリを生む根本原因になるという結論に至りました。

例えば、要件定義が十分でないのに仮説で仕様を決めて実装をするというムリをすると、後になって実装のやり直しが発生する可能性が高まります。つまり、ムダが生まれやすくなります。例えば、長時間労働を前提にプロジェクトを進めるというムリをすると、日常業務の集中力が落ちて不良品が出る可能性が高まります。つまり、ムラが生まれやすくなります。

このように、あれほど良くないと述べたムダやムラを容易に生み出してしまうのがムリです。プロジェクトではムリをせざるを得ない状況が出てくるのは避けられないと思いますが、計画段階ではムリを最大限排除するのが賢明でしょう。一見、不必要にゆとりがあるように見える計画が、実はムダとムラを取り除ける効率の良いプロジェクトの進め方なのだと思います。

 

最後に

失敗したプロジェクトの事例を見てみると、精神論が先行したマネジメントが散見されます。精神論の多くはムリを誘発するもので、その最たる例が大日本帝国だと僕は思っています(計画性のないムリな侵略で100万人を超える餓死者を出した)。 プロジェクトは不確実性との戦いであるからこそ、まずムリのない計画を立てること。そして、その上で、ムダとムラをなくせる仕組みづくりをすることが重要なのだと思います。

トヨタ生産方式、業界を問わず、モノづくりに関わる人にはお薦めです。

 

トヨタ 仕事の基本大全

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