プロジェクトの遂行能力を高める方法

プロジェクトの遂行能力を高めたいというのは、プロジェクトマネージャーの共通の願いであると思います。しかし、どのように遂行能力を高めるか?の答えを持っている人は少数ではないでしょうか。このエントリーでは、日揮でプロジェクトマネージャーを務めていた佐藤知一氏の著書「世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書」を引用しながら、その方法論を考えてみたいと思います。ところで、佐藤氏のブログ「タイム・コンサルタントの日誌から」は玉石混淆なインターネットの中にある素晴らしい情報源です。プロジェクトマネジメントに関わる人は必読です。

 

 

プロジェクトの遂行能力とは?

佐藤氏は著書の中で、プロジェクトはチームで取り組むもの。プロジェクトの遂行能力は、リーダー個人の能力ではなく、組織の能力である。優秀なプロマネをスカウトしてリーダーに据えれば上手くいくというのは誤りで、個人を支える組織の体制や行動習慣が重要である、と提唱しています。また、それをコンテンツ・アプリケーション・OSに例えて、下記のように図解しています。

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コンピュータにコンテンツだけあっても有用とは言えません。コンテンツを活用する為のアプリケーションがあって然るべきですし、そのアプリケーションもOS(Operation System)がなければ動きません。同様に、個人の持つプロジェクトマネジメントの知識だけではあまり意味がなく、社内にあるデータや制度、そして何より、その会社に属する人の行動習慣が重要になる、ということです。つまり、プロジェクトの遂行能力を高めるには、組織のOSをアップデートする必要があると言えます。

現実的には「鶏が先か、卵が先か」で、優秀なマネージャーがいなければ、優れた組織体制や行動習慣は生成されないかもしれません。ここで大事なことは、コンテンツ・アプリケーション・OSの3つの要素を強化する必要があると、まず認識することだと思います。その前提に立てば、経験豊富なプロマネを採用して終わりとはならず、本質的にプロジェクトの遂行能力を高めるところまで進めるはずです。

さて、次にプロジェクトマネジメントのコンテンツ・アプリケーション・OSが何なのか自分なりに考えてみたいと思います。

 

コンテンツ(プロマネ個人スキル)

プロマネの個人スキルは、知識経験人間力の3つ要素で構成されていると思います。

知識は、EVMS (Earned Value Management System) ・ WBS (Work Breakdown Structure) ・ PDM (Precedence Diagram Method) などのプロジェクトマネジメント理論や、アジャイル型開発・ウォーターフォール型開発などのフレームワークを指します。

経験は、上記の知識を業務で使用したことがあるかどうかです。やはり、"知っている”と”やったことがある”には大きな差があります。状況に合わせて適切な判断を下すには、それぞれの理論やフレームワークのメリット・デメリットを身体で理解している必要があります。

最後に人間力。プロジェクトメンバーが人間で構成される以上、感情の要素を除くことはできません。様々なステークホルダーと信頼関係を築き、プロジェクトを円滑に回すことは重要なスキルの一つです。

 

アプリケーション(データ・業務プロセス)

上記のピラミッドでは、アプリケーションは過去データや情報システムなどの要素で構成されていますが、ここは大きくデータ業務プロセスに分類してしまって良いと思います。

データは、過去に同種のプロジェクトに要した時間やメンバー構成、WBS、発生した欠陥などの情報を指します。プロジェクトマネジメントは、端的に言うと、時間・スコープ・お金の3点のマネジメントです。それらの過去データが蓄積されていれば、正しい判断を下せる可能性が高まります。

業務プロセスは、作業要領書や仕様書のようなドキュメント、gitやredmineのようなツール、その他ヒューマンエラー防いだり、作業速度を上げる為のシステムなどを意味します。ドキュメントやツールを用いて、品質を高められた状態で作業の標準化ができれば、個人への依存度が下がり、効率的に作業を進められるようになります。

 

OS(組織体制・行動習慣)

さて、ピラミッドで一番の比重を占める OS、つまり組織体制と行動習慣ですが、個人的には組織体制よりも行動習慣の方が重要度が高いと考えています。

組織体制は定義の広い言葉ですが、代表的なところで言えば、意思決定のスピード・権限委譲・人事制度・財務制度などでしょうか。こうした組織体制が整っていないと、たとえ個人がどれだけ頑張っても、またはどんなに便利なツールがあったとしても、あまり意味がありません。

次に行動習慣ですが、これは会社の文化と言い換えられるかもしれません。僕はトヨタグループの商社で働いた経験があるのですが、そこでは隅々までトヨタの文化が浸透しているのがよくわかりました。

例えば、有名な三現主義。"三現"とは、現場・現物・現実を指し、 現場に足を運び、現物を手に取り、現実を自分の目で見て確認するというものです。これは驚くほどの徹底ぶりでした。役職者の現場を見ずにの意思決定は見たことがありません。効率が悪いのでは?と思う人もいるかもしれませんが、こうした初期フェーズにパワーをかけることによって、不良品の流通を防ぎ、長期的な効率化が図られていると思います。

トヨタの良い文化を説明し始めると長くなるのですが、僕が感銘を受けたものをもう一つ挙げると、バッドニュース・ファーストというものがあります。これは「悪いニュースほど真っ先に報連相せよ」ということなのですが、言うは易く行うは難しで、組織として実現する難易度は高いです。というのも、上長は悪いニュースを受けても部下を感情的に怒らないというのがセットでないと成立しないからです。僕がいた組織では、どんなに悪いニュースを報告しても「報告してくれてありがとう」と、上長が部下を褒めるところを何度も見ました(ちなみに、バッドニュースの報告が遅いと怒られますw)。これも組織に根付く行動習慣の一つだと思います。トヨタグループでは、問題が起きるとすぐに上長へ情報が届き、適切な初期対応を取ることが可能になっています。

 

まとめ

プロジェクトの遂行能力のピラミッドを考えると、個人に出来ることは限られています。しかし、大前提として日々の勉強を怠ってはいけません。プロジェクトマネジメントは科学的なアプローチの研究が進んでいるので、積極的にその理論は取り入れるべきです。

ただ、組織体制や行動習慣に大きな比重がある以上はここを改善していく施策も行っていく必要があります。しかし、僕ではその効果的な具体策が今ひとつ見えないのが現状です。第一歩は周囲の人にその重要性を認識してもらい、味方を増やしていくことでしょうか。組織体制や行動習慣を個人の発信で変えるのは簡単ではありません。が、佐藤氏も著書の中で言っていましたが「ローマは一日にして成らず」。理想像をしっかり持ち、一歩ずつ前に進んでいくことが地道ですが確実な方法だと思います。