プロジェクトマネジメントとプロダクトマネジメントの棲み分けとその組み合わせ
突然ですが「PM」という言葉は何の略称だと思いますか?
Project Manager、それともProduct Manager でしょうか?日本だとProject Manager、海外だとProduct Managerという意味が一般的という話も聞いたりします。また、最近はPjM,、PdMというように明確に呼び分けることも増えてきているそうです。さて、このPjMとPdM、残念ながら呼称どころかその役割さえもよく混同されています。このエントリーでは、両者の役割を明確にし、現場でのベスト・プラクティスを考えてみたいと思います。
プロジェクトマネジメントとプロダクトマネジメントの役割とその融合のベスト・プラクティス
プロジェクトとプロダクトの違い
PjMとPdMの役割を整理する為に、まずはプロジェクトとプロダクトの違いを整理してみましょう。特徴を言語化すると次のようになります。
- プロジェクト
- 「始まり」と「終わり」がある
- プロジェクトの「終わり」の条件を満たすことが重要
- プロダクト
- 「始まり」はあるが「終わり」はない
- プロダクトが市場に受け入れられ続けることが重要
プロジェクトを日本語で言い換えると「目標を達成するための計画や業務」となります。プロジェクトには必ず「始まり」と「終わり」があります。例えば、工場を建てるというプロジェクトであれば、スポンサーの発注によってプロジェクトが始まり、どのような工場を建てるのかを決めて、その通りの工場が建てられたことが確認されてプロジェクトが終わります。どのような工場を建てるのか、といのうがプロジェクトの終了条件となります。
プロダクトを日本語で言い換えると「製品・商品・サービス」となります。プロダクトには「始まり」はあっても「終わり」はありません。例えば、iPhoneというプロダクトは2007年に始まりましたが、それからバージョンアップを重ね、2019年になってもなお多くの人が使用しています。厳密には、プロダクトには製造中止などで終わりが来てしまうものもありますが、それは望ましいことではなく、市場に受け入れられている状態を継続することが重要です。
プロジェクトとプロダクトのマネジメントの違い
プロジェクトとプロダクトの違いについては整理できました。次はそれらのマネジメントについて整理したいと思います。内容が異なるもののマネジメントですので、目標や手段は大きく異なります。
- プロジェクトマネジメント
- プロジェクトの終了条件を満たすことにコミット
- 進行管理、リソース管理、スコープ管理、コスト管理などが主な業務
- プロダクトマネジメント
- プロダクトが生み出す価値にコミット
- 市場分析、戦略・方針の決定、要件・仕様に関わる決定、ユーザー分析、データ分析などが主な業務
プロジェクトマネジメントでは、プロジェクトを終わらせることが最大のゴールです。多くの場合、終了条件は品質、費用、納期によって定義されます。その条件を満たすために、プロジェクトの各フェーズ(立ち上げ期、計画期、実行期、コントロール期など)で、重要なエリア(進行、リソース、スコープ、コストなど)を管理していきます。プロジェクトの進捗を把握し、スポンサーと終了条件を調整していくことも大きな役割の一つです。このような管理や調整がメインの業務になります。
プロダクトマネジメントでは、プロダクトが市場に受け入れられる状態を作るため、プロダクトの価値を高めることが最大のゴールです。しかし、価値の最大化というのは決まった答えがあるわけではありません。その不確実性と向き合い、市場を分析し、戦略を練り、どういう機能を開発するかを意思決定していきます。また、ユーザーインタビューやアクティビティログの分析などを通じて、継続的な改善の方針を決めていくのも重要な役割の一つです。一言で表すならば、何を作るのかを意思決定するのがメインの業務になります。
プロダクトを作るプロジェクトのベスト・プラクティス
さて、ここで難しいのが、世の中には「プロダクト」を生み出す「プロジェクト」が存在することです。 市場に受け入れられるプロダクトを、スポンサーから提示される品質・費用・納期の制限のなかで生み出さないといけません。達成するには「プロダクト」と「プロジェクト」の両方を適切にマネジメントする必要があります。そして、その為には、Product Manager、Project Manager、UX Designer、Engineering Managerの存在が鍵になると考えます。実際の体制をプロジェクトのフェーズに照らし合わせて見てみましょう。
立ち上げ期の主導はProduct ManagerとUX Desginerです。プロジェクトマネジメントの鉄則は、なるべく早い段階で要件・仕様を固めることですが、プロダクトの開発となれば、本当に市場に受け入れられるものは何なのか?を見定める必要があります。そこで立ち上げ期では、Product ManagerとUX Desginerがプロトタイピングを通じて何を作るかを決めていきます。Checkではユーザーテストなどを行い、最大限に市場優位性のあるものを目指します。
一方で、Sponsorは何を作るかが決まっていないものにお金を払うことは難しいです。Project Managerは、プロダクト開発における不確実性をSponsorに理解してもらい、立ち上げ期、実行期での2段階発注などの相談をしなければいけません。また、予算や納期には限りがあります。Project ManagerとEngineering ManagerはProduct ManagerとUX Desginerが定める要件がそれに見合っているかの検証をします。
この流れを繰り返し、市場優位性のある要件が決まり、またそれの実現可能性の確認もでき、Sponsorとの取り決めが終われば、実行期に移ります。
実行期では主導がProject ManagerとEnginnering Managerに移ります。Enginnering Managerが開発をリードし、なるべく短いサイクルでリリースを繰り返します。そのリリースを(できれば設計段階から)Product ManagerとUX Designerがレビューをし、方向性に間違いがないことを確認しながらプロジェクトを進行していきます。
また、リリースを短いサイクルで行うことで、Project Managerも進捗の把握が容易になり、その状況に応じて、Sponsorと各種調整をしていきます。他プロジェクトとのリソース調整など、実開発の外で起こる課題もProject Managerが解決に動き、Enginnering Managerが開発に専念できる状態が作れると開発スピードも上がっていきます。
このように、マネジメントの対象ごとに主担当をアサインし、プロジェクトのフェーズに合わせて柔軟に体制を組み替えるのが、「プロダクト」を作る「プロジェクト」のベスト・プラクティスではないかと思います。
終わり
僕はプロジェクトマネジメントが本業なので、もしかしたら視点が偏った書き方になっているかもしれません。「おい、そうじゃないぞ」というような点がもしあれば、ぜひご指摘ください。プロダクトマネジメントについては、下記の書籍やエントリーから勉強させて頂きました。素人でも勉強できる情報が豊富にあり、本当に便利な世の中になったなあと感じます。また、情報化社会によって市場変化の速度が早い現代だからこそ、今後はプロダクトマネジメントがより重要になるのではと感じています。もっと本腰入れて勉強してきたいですね。
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